人が育つ・幸せに生きる

5月の半ばに訪れたデンマーク学びの旅は、とにかくすごいボリュームで、訪れた場所、聞いたお話、出会った人たち、ひとつひとつ、頭も気持ちもあふれそうでした。どうまとめるかを考えているだけで1ヶ月かかりました。

このツアーは「ひの社会教育センター」(東京都日野市)さんの企画によるもので、13人の参加者と、ひの社教さんからおふたり、そして、現地デンマークではピーターゼン海老原さやかさんが待っていてくださって、総勢16名での1週間でした。この旅で16人が感じてきたことについては、旅の報告会が開かれます。各訪問先の概要などは、報告会に付随のnoteをご覧いただくのが良いかと思います。6月20日以降順次公開予定です。私はIPC(フォルケホイスコーレ)を担当しました。

IPCの報告を記しながら、思いがそれなりのまとまった形になってきました。そのことを、この旅の総括としたいと思います。noteと重なりますが、おもちゃ屋という仕事も、何もかもここに戻ってくるのではないかと感じています。

「世界一幸せな国」「人が育つ国」と言われるデンマーク。どこにその秘密があるのか知りたいと思って参加しました。しかし実は、本当に知ることはできるのだろうか?ちょっと不安がありました。旅が始まってからも、何かを感じながらもつかみきれないで、途中の振り返りの時間にはモヤモヤしたことしか言えませんでした。

質問を歓迎してもらえて、遠慮なく質問をし続けました。とことん話を聞いてくださる。真摯に答えてくださる。答えていただく度にモヤモヤが晴れてきて、デンマークの景色が愛しいものに見えてきました。

知ったことは、デンマークには民主主義的思考が根底にあり、どの場面においても大切にされていること。民主主義的思考を支えているのは、「人はみな幸せに生きるべきだ」という思いです。それもはじめはよくわかりませんでした。だんだんわかってきたのは、人として自然な姿に社会が寄り添おうとしていることです。子どものときは将来に備えて努力するよりできるだけ遊んでいたい。週に37時間働いたら休息を取りたい。夏休みも数週間欲しい。体調を崩したら気兼ねなく寝ていたい。強要されたら嫌だと感じることがなるべく取り除かれていれば、それは幸せだと思います。仕組みにゆとりがなければこのことは叶いません。どのような自分でも、どんな状況に陥っても、困ることなく生きていけるという安心感をもって人々が生活している。

日本では無理、国や社会構造がいろいろ違う、今それは事実です。でも、デンマークの人たちも、望む社会を自分たちの民主主義的思考で作り上げてきたということを知り、与えられていないことに対する不満よりも、自分たちでつくっていくことを考えていこうと思うようになりました。デンマークでは、その意識を0歳から教育の中に取り入れています。電車の中でぐずる0歳の子に、穏やかに対話を試みるシーンを見ました。ぐずりを止めることが最優先で、抱っこかあやすか、なにか食べさせるか見せるかというやり方になじんできたので、驚きました。

店で扱うおもちゃの中に、赤ちゃんへの丁寧な対話に通じるものを見つけたこと、それがおもちゃ屋の原動力なのかもしれないです。生まれたての赤ちゃんに対しても、素材もデザインも良いおもちゃがあります。このキャラクターは人気があるからついていると喜ぶだろう、そして売れるだろうという考えで生産されたおもちゃとは違う。小さい頃から良いデザインに囲まれるというのは本当に大切なことだと思います。訪れた森の幼稚園では、一日の大半を森で過ごすにも関わらず、園舎で使う椅子はきれいなグレーで統一されたトリップトラップチェアを揃えていました。成熟した思考は、成熟したデザインの中で育まれると思う。

良いおもちゃは、デザインだけでなく、遊びとして関わる姿勢も、能動的であり対話的です。対話的というのは実際にお話しすることはもちろんですが、心を寄せるということも含まれると思います。見ているだけ、気づくだけでも。流さない、取り残さないということ。主体的な遊びを支えるおもちゃは、大人が丁寧に関わろうとする姿勢によって真価を発揮すると思う。

子どもに対して妥協ないおもちゃ、そして大人と子どもを対等につなぐ良質のおもちゃ(おもちゃコーディネート)を、これからも、本当に幸せに生きていくためのツールのひとつとして紹介していきたいと思います。

フォルケホイスコーレで、私たちから発した質問に対する回答が印象に残っています。IPCは留学生が主体の学校です。外国人に対してデンマークがお金を負担することについてどう考えるか。回答は、「IPCが各留学生の出身国に知れ渡ることになるでしょう。この教育を受けてデンマークに残ってくれる人、戻ってくれる人もいるでしょう。それはデンマークという国にとって益になることです。」というものでした。人が育つ国とはこういうことかと思いました。教育の大切さを改めて思いました。

まだ相当時間がかかるのかもしれませんが、幸せに生きるための社会を自分たちでつくっていくこと、そのように考える人を育てるお手伝いに、おもちゃ屋の仕事を通して取り組んでいけたらと思います。